Experiments of Actin

『インディーズ候補』(泡沫候補)の特徴的な選挙活動を中心に少し変わった選挙、政治関係の話題を取り上げているブログです。

上野竜太郎の選挙公報(2015年千葉県議会選 花見川区選挙区)

(この記事は同人誌『補導聯盟通信 2015年夏号』に掲載した文章を加筆、再編集したものです)

ニートとは働く意思もなく勉強の意思もない人とされていますが、現代日本ではしばしば単なる無職のことを馬鹿にする(あるいは自嘲的に自らニートと称する)言葉として使用されます。基本的にニートとなってしまう理由は様々なものがあり、一概に言うことはできませんが、例えば仕事をしていたものの、給与も安く、仕事が激務かつ企業側に労働法の遵法意識がなかったり、企業側の要求事項が高すぎたり、過度な対人関係スキルの要求があったりして、精神的身体的に疲弊してしまった場合や求職活動中に様々な所から断られ、自己肯定感を激しく損ない疲弊してしまった場合などもあります。ただ、働かないと一人前ではないという世間の風潮故にニートとされている人たちはこういった事情が考慮されず、不当に貶められている感はあります。 このようにどちらかといわなくても、世間的には不利な肩書きであるニートを名乗って選挙に立候補した候補者がいました。その人物は2015年4月3日に投票が行われた千葉市議会選 花見川区選挙区に立候補した上野竜太郎です。本人のツイッターにそのポスターが掲載されていますが、単に「上野竜太郎 ニート 25歳」のみで、この潔さにはもう脱帽という言葉以外がない感じです。

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また、上に選挙公報を示しました。「中学生の時から合計10年引きこもっていました」とその引きこもり歴がかなり長いことを示しています(なお、本人のツイッターからは職歴があることは示唆されてます)。しかしながら、選挙という場では不利になりそうなこの経歴を「この国の政治家が誰一人として経験していない」とし、「私には引きこもっている人間の気持ちが分かります。友達のいない、恋愛経験のない人間の気持ちが分かります。人生の岐路から外れも毎夜毎夜、自殺を考える人の気持ちが分かります」と自分しか持っていない視点として、他の候補とは違うという視点に変えています。そして、引きこもりが60万人いて、この60万人の助けになりたいという旨を述べています。そして、「私は、選挙に立候補した引きこもりです。私は、ポスターを張るために選挙区を駆け回る引きこもりです。私は、胸を張り、声を張り、堂々と演説する引きこもりです。もし、皆さんのなかに「こんな人間にも活躍の場所がある」とお思いになる方がいらっしゃいましたら、この上野竜太郎に一票を」とかなりよい文章で有権者に訴えています。最後には字が小さいことをお年寄りに詫びつつ、読んでくれたことの感謝を述べ、最後は千葉市花見川区のダメ人間でした」という文で締めています。

このある種、衝撃的なポスターと選挙公報はネットで話題を呼びました。そして、上野竜太郎はツイッターのアカウントを有しており、ここで積極的に情報を発信していました。恐るべきことに当初フォロワーが6しかいなかったのが、選挙終了後には1万5千を超えるという状態となりました。このツイッターでは選挙活動について発信しており、様々な人と出会っていますが、個人的にはおばあさんと千葉市の未来を語っていたら、「野菜の保存方法」についての話題となり、キュウリや生シイタケの保存法を教えて感謝されたという話が良かったと思います(アルバイトの経験が生きているらしい)*1

上野竜太郎は具体的な政策は延べなかったものの、特に若者関係では活発で人生がある程度うまくいっている層ばかりをターゲットにしている候補が多い中、このような引きこもりや人生がうまくいっていない人、決して活発ではないタイプに対する視点を持ち、そのような層を代弁するような候補者は極めて珍しく貴重な存在と言えます。様々な人の代表が出るのが代議制民主政治の基本であることからも、個人的には非常に好感が持てた候補者です。 結果としては残念ながら落選したもの、得票数1,399票(総有効投票数59,975票、無効票1,047票)も獲得し、15人中12位(定数10)と大健闘をしました(なお、最下位当選者は3,081票なので、結構及ばない気はしますが、全く後ろ盾がなく、初選挙でこれはなかなかと思われます)。

なお、個人的には継続した活動を行い、代表として、議会に出ることを期待したいところですが、今のところ、特に次の動きもなく、本人のツイッターも停止状態となっています。