Experiments of Actin

『インディーズ候補』(泡沫候補)の特徴的な選挙活動を中心に少し変わった選挙、政治関係の話題を取り上げているブログです。

ほそや秀秋の選挙公報(2019年日の出町議会選、青梅市議会選)

地方議会選の被選挙権を得るためには、この議会選の選挙権を有する、つまり、基本的に当該自治体に選挙の3か月前から住民票を移して継続して実際に居住する必要があります*1。しかしながら、現在の法令ではこの居住要件を満たさなくても立候補自体を行うことはできてしまいます。そして、さらには立候補を受け付けたのちに選挙管理委員会が立候補を却下することもできないどころか、このことを有権者に周知することもできず、投票終了後に被選挙権なしということで、当該候補者への投票は全て無効として処理することしかできません。このことは参議院選議席を獲得するなどして、現在話題となっているNHKから国民を守る党が、党ぐるみで地方議会選で複数回行ったことでにわかに問題とされました。この件については、以前、紹介しましたので、詳しくは下記のリンク先を参照してください。

actin.hatenablog.com

そして、2019年8月25日に投票が行われた東京都の日の出町議会選では、この居住要件を満たさないことを認識していたにもかかわらず立候補した人物が現れたことで、立候補者数が定数を超えて選挙戦に突入するという事態が起きました。

www.nhk.or.jp

日の出町の定数は14でしたが、この人物を含めると15人が立候補しました。つまり、この人物が立候補しなければ、無投票となっていたのです。なお、今回のような場合、被選挙権がない候補への投票は全て無効となります。このため、この人物以外はすべて当選できると思われがちですが、実はこの状況でも落選する候補が現れる可能性は残っていたりします。それは当選のためには、法定得票数と呼ばれる一定以上の得票率を取らなければならないことが定められているため、このような状況であっても、法定得票数に届かない候補は落選してしまうのです。

この居住要件を満たしていないにもかかわらず、日の出町議会選に立候補した人物はほそや秀秋という名前でした。彼は居住要件を満たしていないと地方議会選への立候補ができないなどの現行の選挙制度に疑問があるとして、今回のような居住要件を満たしていない形での立候補を行ったと主張しています。そのことは下に示した選挙公報にもよく表れています。

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ほそや秀秋は選挙公報衆議院選や参議院選、地方議会選の現在の被選挙権について疑問を呈しています。そして、全ての選挙において、公民権が停止されていない限り、20歳以上であれば被選挙権が与えられるべきであると主張しています。そして、NHKから国民を守る党が東京都の足立区議会選で、居住要件を満たしておらず、被選挙権がない候補を擁立し、その候補が当選ラインを超える票を得たこと*2、千葉県の鎌ヶ谷市議会選で22歳の人物を候補者として擁立しようとしたこと、冒頭で述べた兵庫県議会選で居住要件を満たしておらず、被選挙権のない人物を擁立したことなどを述べています。

ただ、NHKから国民を守る党の候補者はいずれも自身に被選挙権がないことを選挙公報には全く記載しませんでしたが、ほそや秀秋は異なり、最後の項目で「今回私も被選挙権が無いので私の考えに共感する方だけ賛同してください」と自身に被選挙権が無いことを選挙公報で述べています。また、ほそや秀秋はYou Tubeに日の出町議会選の選挙演説の動画をアップしていますが、ここでも被選挙権がないことを述べています。

www.youtube.com

このように自身に被選挙権がないことを述べると言う前代未聞の選挙公報を提出したほそや秀秋ですが、何と33人もの有権者が投票していることが判明しています*3。しかし、ほそや秀秋は被選挙権がないため、彼に投じられた33票は全て無効票となり、得票数0と記録されています。

ちなみにほそや秀秋はこの選挙が初挑戦ではありません。実は2019年4月21日に投開票が行われた東京都の青梅市議会選に立候補をしています。なお、日の出町のときと異なり、居住要件は満たされていたため、この選挙では被選挙権が存在しました。

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この青梅市議会選のときの選挙公報を上に示しました。日の出町議会選のときと同様に「街をよくする党 公認」と自身が設立したと思われる政治団体の公認であることを記載しています。そして、青梅市議会選のときもNHKから国民を守る党への言及がありましたが、この選挙公報では「古い青梅市政をぶっ壊す!」NHKから国民を守る党のフレーズをもじったような文言が見られ、NHKから国民を守る党にある程度傾倒しているのではないかということが見られます。

日の出町議会選では被選挙権について自身の考えを主張しましたが、この青梅市議会選の選挙公報では被選挙権があり、当選の可能性があったためか、極めて真っ当に政策を訴えています。具体的には虐待やDV問題について、市立病院の看護職員の離職問題や新病院の建設、高齢者障害者福祉など市政に関することを8項目に分けて、有権者に自身の政策を主張しています。

この青梅市議会選で被選挙権があったため、しっかり得票数が記録されており、得票数216票(総有効投票数52,921票、無効票950票)となり、31人中30位(定数24)となっています*4

このように日の出町議会選で被選挙権がないにもかかわらず、立候補したほそや秀秋ですが、今後も同様のことを繰り返すのかも含めて、注目すべき候補といえます。

*1:都道府県議会選の場合はその都道府県の同一市区町村に、市区町村議選はその自治体に継続して3か月以上居住することが必要

*2:なお、被選挙権がないため、得票数は0と記録されています

*3:http://www.town.hinode.tokyo.jp/sp/0000002082.html

*4:https://www.city.ome.tokyo.jp/senkan/h310421shigikaikai.html