選挙ドットコムさんに寄稿しました(テーマ: 東郷健の政見放送削除事件)
選挙情報サイトの選挙ドットコムさんに以下の記事を寄稿しました。
この記事は伝説的インディーズ候補である東郷健*1が1983年の参議院選で政見放送をNHKに編集、削除されたいわゆる「政見放送削除事件」を取り上げています。今回の注目ポイントとして、「政見放送削除事件」は「めかんち」「ちんば」という差別的な用語の使用が問題と言われていましたが、実は「めかんち」「ちんば」という言葉は2回使用されており、削除されていたのは片方だけ、つまり「めかんち」「ちんば」という言葉の使用自体は問題とされていなかったという点です。
また、紙面の都合等で細かく説明できなかったのですが、政見放送で商品の宣伝をした場合、カットされる危険性が高いという部分について補足説明します。
長田正松というインディーズ候補が昔いたのですが*2、この人物は1980年の参議院選で自社製品の健康食品の宣伝目的で立候補したため、宣伝目的の虚偽立候補ということで公職選挙法違反に問われ、有罪判決を食らい、公民権を停止されたことがあります(なお、この長田正松は1992年の参議院選で「日本愛酢党」という党を設立し、比例区に立候補して、酢の効能を訴えましたが、この選挙では罪に問われる事はありませんでした)。この件に言及しようと思っていたのですが、文字数の都合とこの罪に問われた時の政見放送と裁判がどのようなものか資料不足で分からなかったため、今回はこの事件に関してはほとんど言及しませんでした。近日中に長田正松のこの事件をしっかり分析しようと思いますので、よろしくお願いします。(追記: この公民権停止に関しては信用できる情報が見つからず、真偽が現在のところ不明です。ただし、商品宣伝に関しては公職選挙法150条の2で「特定の商品の広告その他営業に関する宣伝をする等いやしくも政見放送としての品位を損なう言動をしてはならない」と規定されていることからカットされる危険性が高いと思われます)
次に政見放送の削除の根拠となった公職選挙法150条の2の「他人若しくは他の政党その他の政治団体の名誉を傷つけ若しくは善良な風俗を害し又は特定の商品の広告その他営業に関する宣伝をする等いやしくも政見放送としての品位を損なう言動をしてはならない」という部分です。この部分は明確になっていないと記事中では説明しましたが、もう少し、細かく分析してみましょう。
対立候補等に「腹を切って死ぬべき」と述べた又吉イエスや古くは田中角栄を殺すと述べた奥崎謙三の政見放送が特に削除されずそのまま流されている例から、対立候補等に対し、死ぬべきあるいは殺すという発言は「他人若しくは他の政党その他の政治団体の名誉を傷つけ」に(今のところ)該当せず、セーフであると考えられます。ただ、記事中でも述べたようにこの公職選挙法150条の2が明確にされていないことから、今後、NHKが同様の発言を問題視し、削除した場合、裁判においてどういう判決が下るのかという点は留意する必要があります。
最後に選挙ドットコムさんの記事では掲載できなかった参考文献情報は以下の通りです。。
・最判平成2年4月17日 民集44巻3号547頁
・東京高裁昭和61年3月25日 高民集39巻1号1頁
・東京地裁昭和60年4月16日 判事1171号94頁
・本田康作, 差別発言と発話行為 -政見放送削除事件を素材に-, 大阪経済法科大学21世紀社会研究所紀要, 2014, 5 .
・東北大学公法判例研究会, 公報判例研究, 法学, 1993, 57巻3号, p.115.
・青柳幸一, 政見放送における表現の自由, 新聞研究, 1990, No. 468.
・尾辻善人, 憲法の基礎理論と解釈, 信山社 (2009) p.619.
・清水英夫, 政見放送の一部削除が緊急避難的措置として許され違法性を欠くものとして損害賠償責任が否定された事例(いわゆる政見放送削除事件控訴審判決) -東京高裁14民事部判決,昭和61年3月25日,昭和60年(ネ)1117号・1204号,原審東京地裁-, 法律のひろば, 1986, 39(7), p.68.